大倉 恭輔先生
高校卒業後の進路選択は、
自らの意思で人生を歩むための第一歩。
あなたの成長に立ち会わせてください。
大倉 恭輔
Kyosuke OHKURA
英語コミュニケーション学科
専門分野?専攻 社会心理学?コミュニケーション論
Kyosuke OHKURA
英語コミュニケーション学科
専門分野?専攻 社会心理学?コミュニケーション論
[プロフィール]和光大学人文学部卒、成城大学大学院文学研究科博士課程(コミュニケーション学専攻)修了。1992年より現実践女子短期大学部に着任。
幅広い分野を横断し、人間の営みや文化を「心」に結びつける研究がしたかった
生まれ育ちは東京ですが、私が若かった頃は、何においても現代より選択肢が少なく、音楽好きの高校生といっても、聴いているジャンルはそんなに幅広いものではありませんでした。インターネットもないので、若者の自己表現の手段は、「書く?描く」か「演じる」かのほぼ二択状態。私自身も友人と一緒に雑誌をつくり、詩や評論を載せていました。バンドでの演奏や演劇に熱中するクラスメイトや、大学生になると、8ミリ映画を撮り始める人もいましたよ。
さまざまな分野に興味があったので、大学進学の際の学部選びには悩みました。「人の心について学べば、どんな分野においても生かせるベースになるのでは」と考え、心理学が学べる和光大学の人文学部へ。心理学のゼミに所属しながらも、社会学?芸術学?幼児教育のゼミにも参加していました。それが許される環境に身を置けたことは幸運でしたね。
大学で、何人もの個性的な先生方に出会い、「こういうことが仕事にできたらいいな」と漠然と考えるようになりました。もとより、サラリーマン生活は自分には向いていないだろうと感じていましたから。ですが、学問の世界は学問の世界で堅苦しいルールもあります。特に、当時はまだ、「研究者とは、ひとつのテーマを極める者だ」という意識が根強い時代でした。そうして、心理学は「科学」ですから、とても厳密な実験室内での研究が主流となります。私がしたかったのは、幅広い分野を横断し、人間の営みや文化を「心」に結びつけるような研究。心理学のフィールドでそれをするのは難しいと感じ、そういうスタイルの学びが許される大学院をさがすことになりました。
結局、大学院浪人をすることなった私が、友人の紹介で入学したのは成城大学大学院。専攻はコミュニケーション学です。成城大学は、他大学に先駆けてマスコミュニケーション系の学科を設置し、先進的な教育を行おうとしていました。ある意味「何でもアリ」な環境の中で、私が興味を持ち始めたのが音楽と心の発達の結びつきでした。幸運にも、院生時代に、幼児音楽教育に関する書籍を出版できたのですが、「このまま幼児教育の分野にいくことでいいのか」という疑問が出てきてしまいました。
幼児音楽教育と同時に、若者の性文化について研究していたこともあり、以降、私の興味は「若者文化としてのポピュラー音楽」に移っていきます。
伝えたいのは、小手先の知識ではなく、一歩引いた視点から物事を捉える方法
10年近く在籍した成城大学大学院を出て、実践女子短期大学に着任したのはその1年後。改革の途上にあった生活文化学科で、社会学系や情報論系の科目を教えることになりました。
時代は90年代初頭。多くの大学で改革が進み、従来の家政学科が、生活文化系の学科へと生まれ変わった時期でした。新しい時代を生きる学生のための、新しい「学びの場」を模索するにあたって、私のような、複数の領域を横断する「何でもアリ」の人材に白羽の矢が立ったのでしょう。
その後も実践女子短期大学は、時代の変化に合わせた改革を進めていきました。さらなる学部再編で生活福祉学科に移り、心理学を中心に教えていた時期もあります。そして2014年、実践女子短期大学は実践女子大学短期大学部になり、私は、観光ビジネスコースと国際コミュニケーションコースからなる英語コミュニケーション学科へ。現在、学科の専門科目として担当している授業は「都市文化研究」と「マーケティング」です。加えて、基礎ゼミと卒業ゼミも受け持っています。
英語コミュニケーション学科には、在学中および卒業後の留学を目指す学生がたくさんいます。留学にはいくつかの条件があり、たとえば「オーストラリア文化事情」や「アメリカ文化事情」といった授業を履修することが必要です。けれど、私が担当する「都市文化研究」は、どこか特定の都市について学ぶ授業ではありません。概念としての「都市」における人々の営みが生み出す文化について、多角的に学んでいきます。私が長く研究しているポピュラー音楽も、都市から生まれた文化のひとつです。
ポピュラー音楽は文化であると同時に、消費者に支持されなければ成立しない「商品」でもあります。売りたい商品を買ってもらうためには、どのような工夫をすればいいのか。それを考えるのが「マーケティング」の授業です。旅行という商品を取り扱う観光ビジネスにおいても、マーケティングの観点は欠かせません。
入学したばかりの1年生には、商品を売り買いする市場=マーケットの概念がまだないので、まずは、それを掴むところから。例えば、ここ数年で、日本に訪れる中国人観光客の関心は、日本製の電化製品や化粧品といった「モノ」から、大自然でのアクティビティや体験型ワークショップなどの「コト」へと移行していると言われています。急速な経済成長を遂げた中国というマーケットにおいて、そこに暮らす人々のニーズもまた、急速に成熟していることがよく分かりますね。
国や地域ごとの歴史の中で育まれた文化と、それぞれの場所でいかに商品を売るかというマーケティングは切り離せません。どこの国にどんな人々が暮らしていて、今、何を求めているのか。小手先の知識ではなく、一歩引いた視点、広い視野から物事を捉える方法を伝えたいと考えています。
人生に確固たる答えはない。それを受け入れ、自らの意思で歩む力を得るための2年間
1年次の基礎演習で最初に学ぶのは、作文ではなく「リポート」の書き方。リポートとは「報告書」です。自分が学び?調べ?まとめた結論を報告するのがリポートなのであって、何も調べずに「私はこう思います」と書くのはただの感想文。どんな分野においても、先人が積み重ねてきたデータや知見が存在します。図書館にある関連書籍やインターネットを活用し、自分なりに調査を行ってください。それを文章にまとめて報告するのが、研究活動における基本。分かりやすいリポートを作成するスキルは、社会で働く上でも必須とされる能力です。
既存のデータを調査する方法を身に付けたら、次は「自分だけが知っているデータ」を使って、卒業論文を執筆してほしいと考えています。例えば、ウサギを飼っているある学生は、ウサギカフェや猫カフェ、フクロウカフェといった多彩な動物カフェに足を運び、店構えや客層の違いについて調査。その内容を卒業論文にまとめました。
好奇心から行動し、結果的に得た生きた知見=「自分だけが知っているデータ」を誰かに伝えれば、相手はあなたのことを「面白い話ができる魅力的な人だな」と感じるでしょう。初対面の相手にも、自信を持って伝えられる「何か」を、短期大学部での二年間で見つけてほしいですね。
語学力を身に付けるために英語コミュニケーション学科を選ぶ人も多いでしょう。語学は、勉強すればするほど成果が出やすい分野ですが、私の授業の成果は、なかなか目に見えにくいのです。それでもきっと、社会に出て何年後か何十年後かに、私が教えたことが、あなたたちの身を助ける場面があるはず。そう信じ、教壇に立ち続けています。
人間の営みに、確固たる答えはありません。「この道に進めば失敗しない」などという、そんな都合のいい道は存在しないのです。「答えがない」事実を受け入れ、誰のものでもない、自分の人生を歩んでください。高校卒業後の進路選択は、そのための第一歩です。
毎年、短期大学部の新入生の中には、「先生に言われたから」「親に言われたから」ここを選んだ、という人が少なくありません。社会に出る前の、貴重な二年間を過ごす場所です。どうか人任せではなく、自分の意思を大切にしてください。進路選択の際には、複数の大学、短大、専門学校のオープンキャンパスに足を運び、比較することも重要です。
また、個人的には「面白そうな先生がいるから」「受けたい授業があるから」といった、ある一点にしか着目していない志望理由にも疑問を感じます。ここでも伝えたいのは、「一歩引いた視点、広い視野を持とう」ということ。カリキュラム全体の組み立てをしっかり見た上で、英語コミュニケーション学科を選んでくれたらとても嬉しいですね。一人ひとり、違った形の成長に立ち会えるのを楽しみにしています。